Wagon Christ : Tomorrow
ARTIST / Wagon Christ
TITLE / Tomorrow
LABEL / ninja tune / beat
DATE / 2011
TITLE / Tomorrow
LABEL / ninja tune / beat
DATE / 2011
2333。以前紹介した盤"Sorry I Make You Lush"。日本盤の帯の文句曰く「エイフェックス・ツインも認める、サンプリング・マイスター!」。なるほど。そりゃ、変名で活動したら盛大に犯人当てをされ、沈黙を破ればグラミーを掻っ攫うRichardさんに比べると、Wagon ChristことLuke Vibertさんの影はどんどう後景化している。周辺を洗い始めた人たちでも、90年代後半から00年代前半と比すれば、決して遠くはないものの、帯のようなガイドが泣ければなかなかアクセスしずらい立ち位置にいるのかもしれません。rephlex経由としても、 Kerrier District名義ということになるでしょう。コーンウォール一派という地理学的なまとめが無効な程度に、世界はweb空間上でまとめられ、それぞれのウェブサービス上で国境なき再生バトルが繰り広げられているわけだ。Wagon Christ名義では、2016年3月現在で、本作が最新作となる。毎度ながら、サンプリング素材をブレイクさせながら、キッチリとのれるグルーブを作り出している。やや牧歌的な、悪く言えばのほほんとしたメロディを操り、ますます現在性を見出せないであろう趣味の世界に没頭しているように思う。音楽の普遍性などというとっくに仮構化している幻想を抱かせることはない。ライナーの言葉によれば、Wagon Christ名義の楽曲の90パーセントはサンプリグ素材から構成されているという。リアレンジ、リワーク、言葉は何でもよいけど、原曲の服装を着せ替えるのとは違い、構成の魔術を自身の腕力やってのけるという90年代に大流行したやり口ってのは、連綿さを割と大切とした歴史的な音楽の聴き方をトイレに流してしまった私たちには、なんら有効なアプローチではなくなっていると思う。自らをジャンル外に置くことで、それを肯定しているかのように見えるLuke Vibertさんがこれからも音楽を楽しめる程度の余地、、違う。そのおこぼれが、音楽を放棄しつつある自分たちにも一滴でもたらされる余地が、マーケットとして生き残ることを願ったり、あるいはどうでも良かったりするわけだ。本作は、その意味では、もはや訪れない音楽の明日を、リスナーのナラティブによって憧憬させる役目を持つ。勉強熱心な方は手に取ってみてください。