D'Angelo And The Vanguard : Black Messiah
ARTIST / D'Angelo And The Vanguard
TITLE / Black Messiah
LABEL / rca
DATE / 2014
TITLE / Black Messiah
LABEL / rca
DATE / 2014
2272。以前紹介した盤"Brown Sugar"。全12曲。堂々たる直球で、地球規模であふれ出るグルーブにやられないはずがない仕上がりに閉口する。実に14年ぶりとなる3rd。何もてらわない。2014年は皆が音楽へと帰ってきたわけだけど、一昔前ならそんな大事件の群も、音楽がまったきBGMへと変貌した時代において、特に熱狂も驚きもなく、時代の背景にすらなることなく、流れていく。音楽は壊れてしまったわけではなく、その産業が壊れてしまっただけだというのに。われわれは結局、産業構造のなかで絡みとられ、どっぷりと使って生きているに過ぎない。行動原理は常に主体性を剥ぎ取られる。消費者とはそういうものだ。一握りの音楽家だけが、それでも音楽は、と語り続けることができる。彼らに栄光あれ。閑話休題。黒い救世主を熱狂的に迎え入れるという図式が、ゴルサーのように仮構化された物語以外で、どこまでリアリティがあるのかわからないけれども、世界は、多分宇宙のように広大で、そんな言説が強度を持つことだってきっと、まだまだ、自明のこととして硬く横たわっているのだろう。それを彩るBGM以上の何かとして、そんな時代の空気にいかがかしらと供されたわけだ。忘れ去られた物語を取り戻すように、ファガーソンでの黒人少年射殺事件にあわせて発売が前倒しされたことが、音楽そのものというより、社会的背景を取り込んだ産業との強い結びつきを感じるかもしれないが、そのような物語ってのは、宗教的な精神性に似て、ヒロイックな響きを帯び、音楽を前景化するに足る装置だった(んじゃないかな、知らないけど)。なんといっても14年もたっている。本人だって、「俺、忘れられてるんじゃね、こんなに良い曲いっぱい作っても、忘れられてたらだれも聞かないんじゃね」と思っても不思議ではない。もちろん、そんな心配は杞憂だ。金を稼げるかどうか、という点を除けば。なぜなら、大衆音楽という地平では、リスナーは何も新しいおしゃぶりを与えられていないわけだから(コレはあくまで個人的な問題なのかもしれないが。あと僕はさほどD'Angeloを追っかけていたわけでもないけど)。だから、D'AngeloもAphex TwinもBlurも何でもかんでも、以前やっていたことをやれば、大歓迎で迎えられる。新しいことなんて必要ない。ただ、それまでどおりであればよいのだ(コレ自体が簡単ではないという話だが)。本作で彼が、良いメッセージを高め、ブラウンシュガーにまみれた生活とも(おそらく)おさらばし、持ち合わせたただの天才的才能を注力して、60年代のヴィンテージ楽器にこだわるという強いマーケティング意識のもと、ねっとりとしたビートと乾いたボーカルを振りかざして練り上げた本作が駄作になるわけがないというのは疑いようがないでしょう。良い盤です。良い盤というのは一聴して、つまり、針を落とした瞬間に出された空気の震えによって、その個人的可否が決定される。良い盤です。The Vanguardってのは、D'Angeloが従えているバックバンドで、巷ではスーパーがつく人たちが集まっているという話だが、良く知らない。メンバーはJesse Johnson(ギター)、John Blackwell(ドラム)、そして浜ちゃんの息子も大好きな Pino Palladino(ベース)といった面々。そのほかにも作詞でQ-Tipがいたりと多分、周囲をがちっと固めて、勝ち戦をやっているというわけだ。そしてこの結果である。むべなるかな。M2M3がいまいちで、残りは全曲良いとして、なかでもポップスを鳴らしているM9はあがります。あとはだいたい異次元です。どうぞ。