Neotropic : White Rabbits
ARTIST / Neotropic
TITLE / White Rabbits
LABEL / mush
DATE / 2004
TITLE / White Rabbits
LABEL / mush
DATE / 2004
1553。Riz Maslenという女性作家による名義。90年代中盤からninja tuneの下部レーベルであるntoneを中心に活動してきた彼女ですが、本作はいまやアンダーグラウンドヒップホップの市場形成に一役買うレーベルとなった(ように感じる)mushからです。とはいえ、mush自体はanticonのように基盤がヒップホップ人たちではないので、素朴な宅録的インスト盤もリリースしている気がします。本作もその部類に入るもので、なかなか好感が持てる内容に仕上がっています。鍵盤を主旋律に採用し、電子系統も適度に織り交ぜながら牧歌的な世界を演出している。女性(電子)作家というのは、それだけで何かしらのイメージを背負ってしまうというのが、残念ながら現代社会の実情であります。このブログでも作家の性別が取り立てて記述されるのは、それが女性である場合が多い。もちろんそれを戦略的に利用することによって、全面に自身の女性性を押し出す人々もいるし、多くの女性歌手はその戦略によって現代社会のジェンダー的枠組みを何度も何度も上書きし続けているわけです。僕自身としては、そのようなものをポリティカルに批判しようとするつもりもありませんし、70年代以降のジェンダー論的な立場においてジェンダーを脱構築しようにも、身体的なものを基盤とする本質主義的な差異は消えないわけですから結局議論は空回りし続けるだけのような気もします。というか結局僕にはジェンダーというものが持つ問題の内実が見えていないのかもしれません。例えばこのRiz Maslenさんは、女性的な要素の顕在化を意識的に抑圧しているように感じる。あえて「ニュートラル」に全体性を確保しているとさえ思われる。それが戦略として考えられているのかどうかは分からないけれども、仮にそのような意識があったとしても、そのような意識的な隠蔽は結局女性性というものの存在を確保したまま宙吊りにしているに過ぎない。これが僕が雰囲気で考えるジェンダー問題の限界なんですね。もちろんそのような限界はフェミニストたちによって軽やかに乗り越えられているのでしょうけれども。まあ、それはおいておくとして、本作はなかなかの快作です。なかなか凝った細部のつくり方がなされており、音響的ではないですけれども、カテゴリー化を拒む個性を持っている。しかし彼女の乗り越えようとする山が、仮に音楽ではなくジェンダーであるとすれば(そして本作を聴くとその異様な「男性的」「ニュートラルさ」がそれを感じさせずにはおかない)、本作は結局凡庸なものとなっているといえるだろう。