Glenn Gould : J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア
ARTIST / Glenn Gould
TITLE / J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア
LABEL / sony music
DATE / 2007
TITLE / J.S.バッハ:インヴェンションとシンフォニア
LABEL / sony music
DATE / 2007
1168。グールド紙ジャケコレクションの4枚目。帯には《鑑賞のための音楽としての新たな生命を与えられた名作》と記されている。今回もよくわからない。1963年から1964年にかけてニューヨークで録音。タイトルにあるインヴェンションは2声を、シンフォニアは3声を意味し、それぞれの曲の各調性のなかでインヴェンションからシンフォニアへと流れていきます。ジェイムズ・グッドフレンドの解説によればバッハの自筆譜は3種類あるらしく、そこからこのインヴェンションとシンフォニアの位置づけが議論されるという。結論的にいえば、これは純然たる演奏上の教育目的に作曲されたものではなく、バッハが常に意識していたと思われる感性を養い、作曲技法を習得するものとして構想されたものっではないか、という答えにたどり着くようだ。そこからただの練習曲としての性格はリスニングを志向したものとしても機能し始める。ピアノをやっていた経験からいうと、ショパンのエチュード、そしてそれこそバッハの平均律を除けば、指の訓練のためのチェルニーなどは弾いていて耳に入ってくる曲にまったく快楽はなかった。バッハの天才性があるとすれば、常にある種の快楽を訓練にまで紛れ込ませたというところにあると思う。バッハ的な装飾に満ちた本作において、そのシステマティックな体位からは考えられないほど、旋律たちは濃厚なプレイを演じるのである。この盤の解説にはGould自身による「ピアノについて一言」という興味深い一文、もしろんGouldと切り離して考えることのできないスタインウェイのCD318型についてのGouldによる言葉が載っている。Gouldがバッハの楽曲の特性を追求するためにスタインウェイに関しても大いに検討したこと、それでいて本来的でなかった「中音域にある、かすかな神経性の痙攣」と彼に呼ばれる「欠点」をスタインウェイにふさわしい「魅力的な奇癖」として残したことが読み取れる。このGouldの態度もまた、彼の神話を十全に強めるものとして機能しているのだろう。ステキングである。