Nico + The Faction : Camera Obscura
ARTIST / Nico + The Faction
TITLE / Camera Obscura
LABEL / beggars banquet
DATE / 1985
TITLE / Camera Obscura
LABEL / beggars banquet
DATE / 1985
1020。あのVelvets Undergroundの1stで歌姫をつとめたNicoです。まあジャケを見ればわかるかもしれないが。あと声を聴けばわかるかもしれないが。しかしサウンドは彼女がBob Dylanらを集めて製作した名盤"Chelsea Girl"におけるアコースティックサウンドとはまったく異なるものとなっている。80年代という時代の毒気にやられた表層的なテクノロジーに侵犯され、ゆがんだ未来観を投影した呪術的SFのような音を作り上げている。FactionとはパーカッションのGraham DowdallとキーボードのJames Youngによるユニットであるが、ギターの変わりにキーボードないしシンセサイザーが重要な地位を占めるようになることが、まさにそれまでのロックからの大々的な逸脱として80年代を貫くことになるわけだ。しかし興味深いのはGraham Dowdallである。彼はFactionとしてNicoのサポートに勤めたのち、 90年代中葉からソロとしてGagarin名義で活動を始める。そしてその活動のなかでu-coverの超限定cd-rレーベルであるu-cover cdr limitedから盤をリリースしているのである。このレビュー文脈におけるこのねじれたつながりというのは、久々の跳躍であった。さて、この盤が80年代的なものに満ちているといっても、ニューウェーブの多様な広がりに耳を開放した僕にとって、なかなかよく響くというのは記しておくべきかも知れない。かつては80年代という時代がそのまま軽薄な音を生み出した暗黒時代としてR、そしておそらLのあいだでも共通の了解があったように思う。しかし変なはじけ方をするハイハットも、ペラペラなシンセの音もその目的を考えれば、合目的的であると感じるようになってきた。耳が腐っているのは事実だが、好きなものは多いほどよいのである。とはいえ、音の響きそれ自体に注目しているということは譲れない以上、「80年代」を体現している音楽というものは腐るほどあるというのは事実であるというのも記しておく必要がある。この盤におけるNicoのボーカルとピアノ、そしてトランペットの味付けがされたM4を除けばどこまでも奇抜な音の編み上げによって構成された楽曲は、Nicoをいっそうねじれた巫女とし、現在とは異なる平行世界の空気感を伝えるのである。タイトルで示されたカメラ・オブスキュラとは現在においても意味のあるフィルターとして機能しているわけだ。