中村一義 : ERA
ARTIST / 中村一義
TITLE / ERA
LABEL / EMI
DATE / 2000
TITLE / ERA
LABEL / EMI
DATE / 2000
2156。以前紹介した盤『太陽』。本作をリリースする前、リリースされたシングルたちは「ジュビリー」に代表されるように祝祭的であった。時代は、電子的アプローチをさらりと作風に取り込むことがもてはやされ、もはやアナログな宅録などははやらなくなり、ハイブリッドで21世紀を志向するような音楽が蔓延する。プロツールスを導入するというポストロというかTortoiseで見られるアプローチを、COILをはじめとしてこぞって、採用し始めた時代である。そこで10年に1人の天才と呼ばれた引きこもりの音楽家も、きちんとその時流に乗っかり、この3rdをつくりあげたのであった。なるほど。タイトルも直球である。『時代』というタイトルがそぐいそうなところをあえて"ERA"とすることにより、彼は次の話を始めた。なんら違和感のない、ソリッドで、多幸感に満ちた、しかし「ゲルニカ」で見せるやや青臭い社会批評も忘れない程度に研ぎ澄まされた音楽。中村一義の明るさは、その混迷のなかでの空元気であり、前提としての暗がりがあったが、ここでは、底抜けである。前提などはない。とにかく突き抜けることができたという感じだ。愚直で、売れたがりな良い曲がそろっている。事実本作は大きく取り上げられ、適切に評価を受け、僕もよく聴いた。『金字塔』とはまた違う、既知として中村一義を敷いた上での衝撃であった。ロック・ミュージック。パンク。素朴さではなく、とにかく挑発的であるという。ゲストにも、岸田繁や細野晴臣やマーシーこと真島昌利といったメジャーどころがぶち込まれている。もはやうじうじと独我論的に世界を引き受けようとする男の姿はない。その後の活動を予感させるような、個人的な好みでいうと、退屈な曲もある。しょうもない曲もある。しかし、それでも、大作を作ろうという意志と、気概と、それを実現した構想力は、なんの疑いももたれないと思う。「日々。祝え!祝え!おぉ祝え!」と歌う中村一義の達成感は誰も否定できない。ここまで大きな風呂敷をたたみあげたわけであるから。先行する90年代音楽を貪欲に自分のなかに封入した力技。まさに21世紀という時代を、日本語ロックの未来を(当時は本当に輝かしきそれが用意されていると疑いようがなかった)、見事に提示したのである。中村一義は『金字塔』だけで、十分革新と達成を成し遂げた作家であったが、それはこの"ERA"によって何の疑いもなく、過剰なまでに補完された。そういう話なのである。「素晴らしい世界だね」という言葉の裏に自虐を隠しながら、やる必要のない隠しトラックを音楽と過去への賛歌に偽装して朽ちていく中村一義。その後、彼の姿を見たものはいない。