Random_Inc : Walking In Jerusalem
ARTIST / Random_Inc
TITLE / Walking In Jerusalem
LABEL / mille plateaux
DATE / 2002
TITLE / Walking In Jerusalem
LABEL / mille plateaux
DATE / 2002
991。以前ritornellから発表された同様のコンセプトの盤をとりあげましたが、1年後の本作は一個レーベルの階層があがりましてmille plateauxからのリリースです。Bizz Circuits名義でも現代のティピカルな問題へのアプローチが見え隠れするドイツ人のSebastian Meissnerにですが、今回もタイトルにあるとおりエルサレムを取り上げています。今度はタイトルにもあるように、エルサレムを歩くということで、実際に歩いたのかどうかわかりませんが、タイトルに、バスの中、モールの中、浜辺などがあり、そこで音を採取したとも考えられます。また今回はRandom_Incがエルサレムで~に出会うという形でのコラボレートが行われており、Tim Hecker、Electric Birds、Ran Slavin、The Rip-Off Artist、Dub Taylor、Ultra-Redなどのmille・force系の作家で脇を固めています。Buzz Circuitsも多重分裂気味にmeetsの相手に選ばれているところが興味深くもあり、やってられなくもある。多くの作家がBuzz Circuitsの'Bizz Circuits Play Intifada Offspring Vol. 1: Nishbar Li Ha'Zayin'に参加しているので、気心知れた(あるいは政治的イデオロギーに共鳴する)人々なのだろう。そもそもドイツ人が、何の因果でエルサレム問題にコミットするのか。そこに何かしら文化的背景がある場合に説得性を持つこのような作品は、電子音楽においては非常に稀有であるということができる。しかしそれゆえに、以前の盤のように、アラブ音楽とユダヤ音楽が共有できるユートピア的境地などが叫ばれるわけである。いっそうグローバル化するなかで、もはや国境や民族といった問題はたしかに電子の世界では有効な区分ではなくなってきている。機材やプログラムの進歩に寄り添いながら、ネットベースのコミュニケーションはコンテクストを超越してしまう。言葉というコミュニケーションを決定的に欠ために、現地の素材を切り貼りしながら構成されるRandom_Incの作品は異なる複雑さへと絡みとられる。しかし結局このような盤に有効性があるのかどうかという問いを発したときに、答えは個人的に否であるように思う。あるいは新奇なものを搾取するというそれまでのポピュラー音楽に反乱する構造まで読み取ることができるかもしれない。市場原理に基づくもろもろが世界の確執に誠実にコミットできるのかというのは、かなり困難を伴う問いである。結局われわれはそのようなコンテクストに胡散臭さを感じながら、そこから切り離す事で、他のmille plateauxの盤と並べながら聴く事がもっとも違和感がない気がする。その観点にたてば、クリカツ世代のRandom_Incの「普遍的」文法は十分に洗練されていて、いい音と構成を持つ。