Herbert : Scale
ARTIST / Herbert
TITLE / Scale
LABEL / !k7
DATE / 2006
TITLE / Scale
LABEL / !k7
DATE / 2006
1721。「奇蹟」という言葉を使ったLサイドによるレビューはこちら。2006年度ベスト盤選出で、Lサイドが使った言葉を引用するならば「変質的なまでにグロテスクなカオスをPopsという貌(かお)で祝祭的にマスカレードしたような音楽。消費社会的以後の美学の中でこれほどまでに余裕さを感じるコンポジションがなされたことがまず奇蹟」ということです。レコードなら針を刺した瞬間、CDならば再生ボタンを押した瞬間、ある種の確信が走ったとき、それは名盤と呼ばれる。本作は、残念ながら、その資格を有する盤である。1秒にも満たない瞬間で、その音のテクスチャを理解させ、続く瞬間でコンポジションの可能性全体を一気に提示することのできる音楽。年を追うごとに、天才Herbertのなすことは変質狂的なコンセプチュアリズムを帯びている。しかし本作では彼独自の美学におけるルールはなりを潜め、ひたすらポップスへと身体を任せている。アビーロードで録音されたオーケストレーションは、ハウスの流儀のもとで身体的な感覚を与えられ、それに浮かされながらDani Sicilianoさんのボーカルが流れていく。また、ルールを第一義としなかったとはいえ、Herbertのパラノイア的流儀はしっかりとアルバムワークに現れている。そこには種々の楽器からケーブ類、インコ、お菓子、潜水服、石、ゴルフボールといったさまざまなものが並べられ、「本作を作るために使われた635個のもの」という注釈がつけられている。複雑すぎるといっても良い音たちが〈サンプリング〉されたものたちを明かすことの意味は、必ずしもわれわれのリスニング経験に効果があると思わない。そこには、天才がわれわれを圧倒的に突き放すアイロニカルな手法が見て取れるだろう。これだけあれば君も本作を作れる、というような、冷たい、その、姿勢。天才にのみ許される傲慢だろう。そして、間違ってはいけないのは、本作がそのような屈折した音楽家から生み出した、明朗すぎるポップ作品だという点。そう、われわれがもっとも追い求める類の名盤だということだと思う。賞賛してもしすぎることのない、アゲポヨな名作。