Sufjan Stevens : The Age Of Adz
ARTIST / Sufjan Stevens
TITLE / The Age Of Adz
LABEL / asthmatic kitty
DATE / 2010
TITLE / The Age Of Adz
LABEL / asthmatic kitty
DATE / 2010
1698。以前紹介した盤"The Avalanche - Outtakes & Extras from the Illinois Album "。もはや、すべてをゼロにして、すべてを無効化して、しかし、それでも作らなければならない、そうせずにはおれない、クリエイターの苦悩(クリエイターという胡散臭い、というかあまりに大仰な言葉が適用可能な人物は、それほど多く存在しない)。その苦悩が、あるいは苦悩?なにそれ美味しいの?という感情が、ぎっしりと詰め込まれた天才の8th。いや、実際問題、生きていて欲しい、そして何かプラスの感情を与えて欲しい、という希望が存する数少ない作家ではあった。誇大妄想じみたコンセプトをぶち上げるあたり、そのチャイルディッシュなディスコースが本当かどうかは別にして、何よりもいとおしいのだ。それを許されるのは、唯一、才能のあるものだけだ。それが本当らしいと響きうる能力のあるものだけだ(Richard D.Jamesもそうだ)。糞みたいな凡人に対して、まじめである必要はないのだから。まあ、コンスタントに盤を出しているように見えて、歌モノで勝負してくるには、この天才にも5年ほどかかった。それほど"Illinois"は優れた盤であった。しかし、彼はそれまでも電子系インストなどを作っていたわけであるから、彼にとっては別に出し渋りがあったわけではないと思う。本作を聴いてみて、彼がこれまで模索してきたいくつかの方法論がまずまずの形で統合されていることがわかる。まずは明白なブシを持った歌。そして電子的手法による打ち込み。そして、"All Delighted People EP"では暴走したとさえいえる大仰な荘厳さ。本作は、彼が自分の真っ当さを、古く言えば狂気的に表明した、見事な1枚となっている。まるでサイケデリックを聴いているかのように錯乱しているように感じるかもしれないが、どこまでも真っ当なのだと、個人的には思う。その電子メイキングの響きが、どこまでもRadioheadの"Kid A"であることは愛嬌だろう。それは置くとしても、この人は、新しいものを掴み取ろうと、凡人は決して行わない探求なるものをしている。天才なのだろう、喜ぶべきことに。しかし本作から聴くと、この人の良さを結構な確率で取りこぼすのではないか。それくらい本作は粗暴であり、ともすればわれわれは置いてけぼりを食らうだろう。この人がわれわれに合わせて悩んだそぶりをみせて、いろいろ考えたそぶりをみせて、凡人ライクにしているというスタンスからこれまでの見事な作品群が合ったのだ、ということを、とりあえず盲信するところから始めようではないか。そんな優しさに満ちた人間であると、仮定してみようじゃないか。そうすることで、本作の悪い見通しは、悪いなりにスンと落ちてくるに違いない。そうでなければ、この粗暴な塊は看過されるどころか、途中で停止ボタンを押されうるほどのエネルギーを持っているから。強すぎる。そういう印象。にやける、そういう印象。目頭が熱くなる、そういう印象。われわれのために、という独我論をごくたまに許してくれる作家。そんな人間を僕は愛するし、そんな人間は多くの僕たちの世界を救うことができる。本作は、傑作ではない。なぜなら、彼が次に作るものも、次の話をしているから。取るに足らないわれわれを背負わせてすまない。