Modul : Re-Cutting Edge
ARTIST / Modul
TITLE /Re-Cutting Edge
LABEL / u-cover cdr limided(u-cover)
DATE / 2008
TITLE /Re-Cutting Edge
LABEL / u-cover cdr limided(u-cover)
DATE / 2008
2401。ここ数年で飛躍的に商業的音楽は衰退した、ように感じている。その数年前、物理メディアに封入されることでその地位を確保していた商業的音楽は、最後の悪あがきとして、極端に生産数を制限することにより、なんとかアウラを確保しようとした。その試みは、好事家を刺激するには適切であるから、今でも通用する幻想に満ちた手法であるけれども。そんな試みの一つがかつて、群雄割拠したエレクトロニック・ミュージックのレーベルのなかでも良質な作家を送り出していたu-coverという今では誰も知らないレーベルでも行われていたわけだ。cdrに封入された音楽は、おそらく手作りでパッケージされ、世界中にばらまかれるには、ごく限られた枚数のみばらまかれることになる。今ではKoen Lybaertが運営していたベルギーの親レーベルであるu-coverもおそらく、活動はしていないだろう。discogsを見る限り、2012年でそのカタログは止まっている。頑張ったほうだと思う。あるいは、そこから音楽産業は断絶した。ネットのフリーストリーミング時代の到来だ。本作の限定枚数は155枚。ネットストリーミングでの再生回数が155回、そんな事態である。もちろん作家がその気になれば、本作をネットストリーミングに投げ込むことはできるし、そうされているかもしれない。ModulはAlexander Tochilkin、Evgeny Fomin、Evgeny Shchukinの3人によるユニット。一時はサンクラにもアカウントを持っていたようだが、その痕跡も今や確認できない。それぞれが自分たちの道を進んでいるのかもしれないが、少なくともModulでの活動は終わってしまったのだろう。本作は彼らの遺髪の一束ように残された。強い物語にするには、あまりにも聴いていない人間が多すぎる世界である。当時の、ダウンテンポな良質の電子音楽の水準をしっかりと保ったメロウな作風で、ワンオブゼムでしかないと言われればそれまでだろうけれど、この形態の音楽は飽和とともに完成を迎えているから、がっかりすることもないだろう。ただただ素敵な音楽があるだけだ。世界の人口に比すればたったの155枚。ここで紹介したとて、本作にたどり着ける人間のほうが少ないだろう。それでも、聴けるもんなら聴いてみろてなもんで、アジテートを忘れてしまっては、かつての音楽を愛した人たちの身振りが、まったく無意味なものになってしまうだろう。今では中古盤屋でも、u-coverすら見かけることが少なくなってきた。u-coverの流通は大体1000枚程度だったと思う。そういう物語は、今やもうはやらない。一部のレコードを除いて。