Surgeon : Tresor 97 - 99
ARTIST / Surgeon
TITLE / Tresor 97 - 99
LABEL /tresor
DATE / 1997/1998/1999/2015
TITLE / Tresor 97 - 99
LABEL /tresor
DATE / 1997/1998/1999/2015
2253。以前紹介した盤"Basictonalvocabulary"。なぜ買ったのかよくわからないけど、リイシューを新譜で。と思って、過去レビュー見てみたら、本作に含まれる1枚をレビューしていて名盤扱いしていました。明確に概念化されてないが、本能的に良かったと脳の周縁部にでも記憶されていたに違いない。本作は、イギリス出身のSurgeonことAnthony Childがドイツの名門レーベルtresorに残した3部作を、まるっと全てパッケージしたボックスセット。そのうちの一枚が先に言及した"Basictonalvocabulary"だった。残る2枚は1998年の"Balance"と"Force + Form"である。そしてその3作いずれもが高い評価を受けたということは明記しておく必要がある。この時期は確かにジャンルとしてのテクノは葬送されつつあったかもしれない。この時期、テクノ・モーツアルトとまでいわれたAphex Twinは、部屋の中で鳴らされるはずのそのビートをさらに先鋭化させた。そしてそれがわりと浅瀬で受けポップスとして成立した(AFXの活動は置くとして)。その流れに乗って00年代には、踊らせる以上にチルアウトしていくことに快楽を覚え、電子音楽の方向は、攻撃性を剥ぎ取られていく。図式はそんなに単純ではなかったかもしれないが。それでもSurgeonが3年連続で鳴らし続けたのは、暴力的なまでに身体へと訴えるビートと、インダストリアルな音響世界、反復し続けることで思考を殺そうとする音楽だった。そして本作がリイシューされる意味は、音楽は本当に次の一手を考えることにうんざりしてしまったという証左なのだとおもう。テクノロジーの側に寄り添うはずのジャンル音楽が、今でも現在性を保っているというのは、安直な進歩史観的にもあるはずがない。もちろんより複雑に、状況を先立たせて考えるならば、結局のところSurgeonの創りだすビートが、脳細胞よりもその末端の身体組織へと働きかけ、よりプリミティブに人間を突き動かすということなのかもしれない。音楽やダンスの本質とかそんな話がしたいわけではないが。Surgeonの盤といえば、中古屋でとにかく投売りされてているという印象があったし(もしかしたら今もそうなのかもしれないけど)、いつの間にか廃盤になり、そしてこのような形で再び世に問われることになる。悪いことではない。Surgeonがやったことは、もちろんJeff Milsをはじめとするデトロイト、あるいはシカゴやベルリンその他の、年代的にはほんの少し前の先達を経由しての結論だったと思うけど、これが僕たちの中心であった90年代に与えられた音楽であったことに感謝する気分になった。90年代後半にSurgeonが鳴らした音楽は、まだまだ僕たちの中心を占める力を持っているのだとおもう。あるいは残念ながら。人はそれをハード・ミニマル・テクノと呼ぶ。呼び名は何でも良いし、むしろ引きずられてはいけないとおもうから、新しく手に取ろうという人たちは先入観を取り除いておいて欲しいところ。surgeonはその後、自身のレーベルdynamic tension recordsを中心に現役で活動している。Anthony Child名義では、2015年にeditions megoから"Electronic Recordings From Maui Jungle Vol 1"なる1枚をリリースしている。不穏なアプローチだ。俺たちの音楽はひっそりとだが確実に、関係と展開を続けながら、今も鳴り続けている。