Elliott Smith : Heaven Adores You Soundtrack
ARTIST / Elliott Smith
TITLE / Heaven Adores You Soundtrack
LABEL / univarsal
DATE / 2016
TITLE / Heaven Adores You Soundtrack
LABEL / univarsal
DATE / 2016
2245。敬虔なElliott Smith信者である僕は、彼の死後に関連作がリリースされると知ればすぐにでも予約して、すぐにでも聴かないと気がすまない程度に中毒で、だから同名のドキュメンタリーも見たし、本作も予約までして手に入れたわけだ。正直言って謎の実景を垂れ流すドキュメンタリーは退屈だったし、本作に関しても、未発表音源とはいえ、未完成なアウトテイクか、発表曲のデモか、ライブ音源か、初期も初期、14歳の頃に部屋で録音されていたギターの音源か、そんなところで、出がらしもよいところのファンディスク。作家のアビリティが好きであれば格好の1枚だが、中毒者がその失われた大穴を埋めるにはあまりにも味がないといえる。それでも、Elliott Smithの声と、彼が生み出した鉄壁の旋律とが、何度もこすりにこすられて擦り切れきったはずの鼓膜に触れるとき、仕方ないというそぶりで泣きそうになるのは、ただの刷り込まれた生理現象に過ぎないのかもしれない。純粋に音楽として、なんら青春のバックボーンも伴わない(たとえば、何か人生を変えるようなコトがおきたときのBGMだったなど)にも関わらず、Elliott Smithの作り出した魔法は本当に僕にとって、そして多くの人たちにとって魔法だった。唯一無二だあったために、彼が不在である世界には、なんらもう希望はない。この出がらしのような1枚が、かけがえのない未来への支えとなるほどに。'Say Yes'のライブverなんて、スタジオ盤と何が違うって拍手が入ってるかどうかぐらいのもんじゃねえかとおもいながら、それでも彼の声とギターが鳴っている間は、何か音楽をつかんでいるような気分になれるというわけだ。たまらない。彼の不在は。もう死後10年以上たっている。なんと言うことだろうか。ふざけるのもいい加減にしろといいたい。糞みたいな音楽と、糞みたいな人生と、それでもElliott Smithが残した音楽があり、分裂気味に悪態と感謝を繰り返す。本作の白眉は、もちろんM13の'True Love'だとおもう。Jon Brionが録音した。歌が入った2001年の正真正銘の未発表曲。ドラッグに身体を浸しながら、いつもどおりのイントロから卓抜なAメロと、しかし彼一流の解消を向かえることなく嘘のような変奏を続ける旋律をたたえ、最後に祈るように終わる。最高の1曲ではないが、紛れもないEliott Smithの1曲で、このためだけに本作を買えばよいだろう。そして僕たちは、そろそろEliott Smithの取りこぼされたアウトテイクを期待するのをやめなければならない。だけど、そうするには希望が必要だ。オルタナティブな希望が。