AFX : Orphaned Deejay Selek 2006-08
ARTIST / AFX
TITLE /Orphaned Deejay Selek 2006-08
LABEL / warp
DATE / 2015
TITLE /Orphaned Deejay Selek 2006-08
LABEL / warp
DATE / 2015
2319。以前紹介した盤"Computer Controlled Acoustic Instruments PT2 EP"。とりあえず、2014年と2015年は、われわれにとって祝祭だった。平坦な日常において、宇宙でとれた胡椒のように、鼻腔を刺激する音楽がある。まずは、スタンダードに、次は、エクスペリメンタルい、その次が本作。名義の使い分けは、ざっくりとしたご愛嬌。Richardがベース・ミュージックとする(と果してかんがえていいものかどうかは不明だし、多分違うだろうけど)、エレクトロ・ミュージックを音数もそぎ落としてシンプルに、それなのにどこまでもRichardらしく仕上げた1枚。タイトルが意味するところはよくわからない。孤立したとか、孤独な、とかそんなところか。Deejayは、DJ、Selekはselektedぐらいの感覚か。時期的には、沈黙していた時期、Tuss名義で遊んでいたと考えられている時期前後と一致する年代のチョイス。文字通り、その時期に制作されたものなのかは不明だし、仮にそうだとすれば、そんな過去化した音楽を素晴らしいと賞賛するわれわれは、なんとも周回遅れの日々を送っているという惨めさを感じるべきなのかもしれない。家族とともに生きる天才音楽家が、しかし、その制作現場において、孤独であるという、それまでの彼の言動と音楽から推察すれば、馬鹿らしいほどナイーブなタイトルすら、僕たちを馬鹿にしているのかもしれない。それぐらい、僕たちは、耳の穴をかっぽじいいて、彼の身振りを待つほかないのである。かつてのAFXといえば、90年代を通して暴力的な音を破裂させていたわけだけど、ここではその重低音すらも丁寧に敷かれていて、音響作家であるかのような神経質な追及を感じる。こんなばかげた発想はリスナーである人間の、そうであるに違いないという崇拝に似た形に由来する聞き手側の身振りであるわけだけれど、それを感じるほどにわれわれも、そしてその可能性を残す程度に作家も、老成したのだと思う。20年以上である。なんら不思議ではない。その期間、多方面の意味でポピュラー・ミュージックの前線にあるということをわれわれは何よりも幸福に思う。全8曲、30分に満たない本作からはなんのてらいもなく、次の話が聞こえてくる。消されては現れるサンクラの楽曲群に、魔術が施され、選び出されるのを待っている。きっと、もうすぐだ。