朝日美穂 : Thrill March
ARTIST / 朝日美穂
TITLE / Thrill March
LABEL / sony
DATE / 1999
TITLE / Thrill March
LABEL / sony
DATE / 1999
2183。朝日美穂といえば、「モモティ」という先鋭化したトラックを備えた曲が、僕のなかに刺さって、一瞬にして輝ききらめいた。そんな彼女の2nd。思い出は良い思い出のみが先鋭化する。そんな人生がもっとも素敵ではないか。何を言われようが。どんなにさげすまれようが。一瞬の邂逅が、そのときに実現した奇跡のみを抱えて、それ以外のぞんざいな問題は、伝わらない自分の反省とともに、パイ皮の層に練りこんでおけばよいのである。伝わらなければ伝わらないほどに。悲しさをとおりこして笑える事態になったとき、それはとどかない言葉とともに、意味のないものとして流されていくのだ。俺たちはこれからだ。思えば、彼女のようなSSWのあり方が、許されにくくなった現状ってのはあるだろう。繊細なボーカルが、オーガニックなトラックにのって。そんな夢物語のような現状を。ほとんど生目で作家を見たことがない僕にとって、朝日美穂ってのは、特別である。新宿のタワーレコードで、こちらも時代とともに愛した川本真琴らとともに立ち現れた、ミホミホマコトのインストアライブ。フリフリの衣装に身を包んだ彼女たちの滑稽さは、それを意識化することでポストモとなったガールズユニットであった。そのようなお遊びはもちろん長続きしない手品みたいなものであったけれども。今、聴きなおしても、本作のサウンドメイキングは本物のよさをたたえている。懐かしい記憶もある。朝日美穂が良いなぁと思って、しばらくしたあとに、雑誌か何かでJim O'Rourukeがフェイバリットにあげていたという事実。そんなささやかな一致でもって、しかもそれが朝日美穂っていう90年代という時代でのみ成立した曖昧なSSWによって結実したということでもって、僕の幼い精神性は満たされたのであった。ああ間違ってなかったと。選択は常に自己選択である。その責任は、どこにもやれない自分にのみ帰結する。だから僕たちは笑えるのだ。僕たちは笑える。自分の責任で持って。誰のせいでもない。僕たちは、僕たちとして、その責任を引き受けて、その危うさを愛しながら、行進し続けるのである。取り巻きなどいらない。僕たちはバカだけど、信じるにたるんじゃないかな。そんな洗濯と掃除をたたえた世界。その世界で鳴らしておくのに、とんでもなくふさわしい音楽があるとすれば、この1枚であることに違いない。多分、失礼を承知でいうなれば、まったくもって広く評価されなかった彼女だけど、それでも、誰かしらの鼓膜をしっとりとぬらしたのは間違いないのだから、誇るべき1枚なのだと思う。素晴らしい。