Brian Wilson : Smile
ARTIST / Brian Wilson
TITLE / Smile
LABEL / nonsuch
DATE / 2004
TITLE / Smile
LABEL / nonsuch
DATE / 2004
[47-71]。以前紹介した盤"S/T"。さて、個人的な話をすると、僕は今日が20代最後の1日である。別に、その記号性に対してなんら重要性を置いているわけではない。それでも、平坦な日々のなかで、何かしらの目盛りとして機能する利便性はないわけではない。そういう意味で、何について話そうか、となったとき、なんとなく本作を選んで置いた。僕が中学時代から憧れ、引っ張り、そしてもはや伝記のなかで語られるからこそ、神格化される「世界最高のアルバム」。そう、"Smile"である。鳴かず飛ばずのBrian Wilsonが、とうとうやってのけたのだ。2004年、本作がリリースされたとき、というか、リリースがアナウンスされた時点で、冗談めいた「世界最高のアルバム」に対して、世界はざわめいた。その中には、想像の世界に閉じ込めておいて欲しいという不安もあったと思う。それでも本作は、The Beach Boys名義ではなく、Van Dayke Parksという音楽的伴侶のもとで、薬物におぼれながら光に手を伸ばし続けてイカロス化したBrian Wilson名義によって落とし前がつけられたのである。それまでのBrianの不出来から、僕自身も、まったく期待してなかったが、当時怖いもの見たさで試聴したとき、ああ、これはまだ聴かないほうがよいなと判断した。それは良い方向に触れていたと思う。技術的には、60年代にくれべて飛躍的に進化し、それでもなお、過去の遺物を最新鋭の方法でよみがえらせる意味などどこにあるのか、という問いもあったに違いない。それでも、重圧もなにもかもぶっ飛ばして本作は、本当に出たのである。ガチだったと思う。そして、僕は聴けない、と思った。恐れおののいた。いつか、定年を迎えたときに、聞きましょうとか、悠長な人生観を抱いた。それでも、やっぱり、手を伸ばさないわけにはいけなかったってのは、僕自身も過去の憧れと対峙する必要があったためである。嘘である。さて、本作の、「」世界最高のアルバム」としてのリアリティがどの程度保証されているかと問われれば、なかなか判断は付かないだろう。そのような絶対的1位を仮構するなんて、現実世界に落とし込んだときに、目盛りのない音楽作品においては、不可能なわけで。それでも、この1枚の再現性といえば、それはもう前代未聞という言葉を当てよう。僕は"Smiley Smile"があくまでできそこないであり、それでもなお、その見感性の塊と、その後にぽろぽろと蔵だしされた「世界で最も美しい曲」である'Surf's Up'で満足していたのである。それが、本来の構想のもと、(おそらく)理性を取り戻したBrian Wilsonが、24歳の頃にぼろぼろになりながら触れようとした世界を取り戻そうとしたとき、本作はきちんと、驚くほどにきちんと提出されたのである。脅威だ。僕は満足している。驚きがある。なるほどがある。というか、正座である。もはや。僕はその対して重要でない、とるにたらない節目において、本作を脳みそに1回でもよいからたらしこんでおいてよかったと思う。僕は定年まで待たなくてよかったと思う。それでも10年近い放置期間があったのだが。ごめんなさい。小声でそう震えながら。"Smile"についての歴史的な経緯はDavid Leafが落ち着きを隠せない興奮とともにスリーブでしたためているから、詳述するのは野暮である。所詮僕は、周回遅れの遅れに遅れたリスナーなのだから。それでも、ひとつ、言わせて欲しい。"Smile"は、「世界最高のアルバム」であることは、事実だった。たとえ、それが2004年の新譜としては当てはまらないとしても。過去の野暮な確認だったとしても。夢物語が現実化したんだ。本作について、「出さないで欲しかった」とかいうなよ。「Brian Wilsonの声が駄目」とかいうのは、まだ100歩譲って客観的に否定しないとしても。全17曲。奇跡である。いつかまた、きちんと書き直そう。それが"Smile"という魂に対する、まったく不十分な礼儀である。それでは、音楽...音楽...。