Aphex Twin : Richard D. James Album
ARTIST / Aphex Twin
TITLE / Richard D. James Album
LABEL / warp
DATE / 1996
TITLE / Richard D. James Album
LABEL / warp
DATE / 1996
[48-71]。さて、僕は、規則正しく30歳になった。大好きな人には見放されるようなくだらない生命を抱えていて、そのまま両親に感謝のメッセージとしてしたためていたら爆笑するぐらい泣けた。「30年間ありがとう」。さてエゴイストとしての自分が暴露されたところで、その源流を辿ることにしよう。答えは簡単だ。高校3年生のとき、僕がいともあっさりと道を踏み外し、テクノへと流れていくきっかけとなった強烈すぎる脳髄切り、Richardさまの転換作である。このジャケットの強烈なこと。ニヤリズムはエゴイスティックに僕たちを挑発している。これでもかとRichardさまは自分を主張する。周囲の音楽状況など一切消去して、自分の信じる音楽を1996年に提示したわけだ。M1の'4'を聴いて、脳みそがぐちゃぐちゃになる。Richardさまのエゴにのっとられるかのように。僕は大学時代とか、考え事をするときによくAphex Twinの音楽を流し込んだ。頭がぐちゃぐちゃになっていくなかで、たまにその配置図が思いもよらぬ形で成立する瞬間をまった。退屈な思考の展開を、ドラスティックに組み替えていく。理性的な音楽ではなく、どこまでも歪んでいて、醜くて、悪くて、でも圧倒的に美しい瞬間を孕んでいる音楽。それがAhpex Twinの音楽だった。正直に告白すると、初めて聴いた瞬間は、なんじゃこれ、と思ったと思う。それでもじわじわと僕自身の自我を明け渡すことに快感を覚え始めた。危険な1枚である。虐待、殺人、強盗、強姦、その他もろもろの現実を極上の笑顔で笑い飛ばすかのように、クソッタレな現実から僕というクソッタレなきれいごとにまみれたエゴを上書きするように、テクノ・ミュージックが到来したのである。それがもたらした透明な網膜ったらない。見渡せる気さえした。ここが理想郷か。なんてこった。僕はテクノという名前のもと唯名論的にSFを思考しはじめ、輝かしいものであれクソッタレなものであれ未来を待っているという夢見がちな大人になった。はずだった。僕は、30歳になった。仕事用の携帯が鳴ると'4'が流れ出す。現実において継起し続ける全てをぶっ飛ばす扉。30歳になった僕は、感覚がまったく麻痺したままで、それをクソッタレな現実との接合としてうんざりしている。本当にうんざりだ。どうしてこんなクソッタレになってしまったんだ。家族に謝罪を。友人に謝罪を。大好きな人に謝罪を。僕のことを多少なりとも認識している人たちにも、残りかすを全部つめこんだ謝罪を。それを済ませたあと、僕はもう一度Aphex Twinに向き合おう。Richardさまにお伺いを立てよう。僕の人生を彩ってくれた、僕の人生を多大に捻じ曲げてくれた、そして何よりも「次の話」を提示してくれた現存する数少ない天才音楽家に伝えよう、ありがとう。この言葉が伝えられるのは、僕を形成してくれた全てに、しかし数秒で数えられる程度にしか存在しないスペシャルな全てに、エゴイスティックに押し付けられる。ありがとう。心から。僕は僕は僕は僕は僕は、エゴの塊を受け入れて、次に進むんだ。